個人の主体的なキャリア形成を支援するという考え方は、すでにいくつかの法令に見られる。たとえば、労働施策総合推進法3条1項は、職業生活(キャリア)の適切な設計によって生涯を通じて職業の安定を図ることを労働政策の基本的理念としている。しかし、これまで、キャリアは企業から与えられるもので、個人が企業に対して配慮を求められるものではないと考えられてきた。それが、最近になって変わりつつある。裁判からいくつかの例を挙げてみたい。
https://www.rodo.co.jp/series/179337/
ポイント!
上記コラムで鎌田教授は、妊娠前まで実績を積み重ねてきた労働者のキャリア形成に配慮せずこれを損なうとして労働者の請求を認めた判例(東京高判令5.4.27)や情報専門職としてのキャリアを形成していくという原告の期待に配慮しなかったとして配転命令の無効とした判例(東京地判平22.2.8)などを紹介しています。「キャリアは財産」という認識が判例で少しずつ積み上げられて来ているようです。
下記は法政大学諏訪教授の「キャリア権」についての寄稿文です。
https://www.rengo-soken.or.jp/dio/dio395-1.pdf
インフォメーション
●施行は7年10月に “柔軟な働き方”措置など 改正育介法2024.07.05 【労働新聞 ニュース】
厚生労働省は、今年の通常国会で成立した改正育児介護休業法に関連し、3歳から小学校就学前までの子を養育する労働者を対象とする「柔軟な働き方を実現するための措置」の義務化の施行日を、令和7年10月1日とする方針だ。6月26日に開いた労働政策審議会雇用環境・均等分科会に施行期日に関する政令案を示している。
改正法では、柔軟な働き方を実現するための措置として、①始業時刻などの変更、②テレワーク、③短時間勤務、④新たな休暇の付与――などのなかから事業主が2つを選択して用意し、うち1つを…
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001259367.pdf
ポイント!
育児・介護休業法及び次世代育成支援対策推進法の改正について動きがありましたので、先月に引き続きご紹介します。育児関連の「柔軟な働き方を実現するための措置義務」と「仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮義務」の施行日が上記のとおり決まりました。
複雑で分かりづらいという声が多いようで東京労働局ではショート動画(随時更新)の配信を開始して周知に力を入れているそうです。
https://www.youtube.com/shorts/0VHK1VfVSfg
●変わる家族像 社会保障制度を個人単位に/山田昌弘・中央大学教授 日本経済新聞6月7日
国立社会保障・人口問題研究所が4月に「日本の世帯数の将来推計」を公表した。2050年には単独(一人暮らし)世帯が44.3%に達し、特に一人暮らしをする65歳以上の人が男性は450万人、女性は633万人になると推計されている。つまり一人暮らしの高齢者が1千万人を超える社会がもう...
〇結婚や仕事の希望かなわぬリスク高まる
〇日本の社会保障は従来型人生設計を前提
〇家族構成や雇用形態の影響少ない年金に
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD281QY0Y4A520C2000000/
ポイント!
山田教授が述べられている、現社会保障制度が前提とする標準的ライフコースから外れる人が多い今の時代に即した制度構築をし直す必要があるという主張には多いに納得できました。
ちなみにコラムの論点の根拠データは下記資料の13,14頁辺りです。
https://www.ipss.go.jp/pp-ajsetai/j/HPRJ2024/hprj2024_gaiyo_20240412.pdf
●制度周知し介護離職防げ 労働新聞2024.06.06 【主張】
介護休業制度の個別周知の義務化などを盛り込んだ改正育児介護休業法が、5月31日に公布された。
来年4月から、家族の介護に直面した労働者がその旨を申し出てきた場合、自社の両立支援制度を個別に周知し、利用の意向確認を行うことをすべての事業主に義務付ける。40歳到達時など、介護に直面するよりも早い段階で情報を提供することや、相談窓口設置などによる雇用環境の整備も義務化する。労働者が支援制度を活用しないまま、仕事との両立をあきらめて離職してしまう事態を防ぐのが狙いだ。
https://www.rodo.co.jp/column/177961/
ポイント!
令和6年5月に育児・介護休業法及び次世代育成支援対策推進法が改正されました。
1 子の年齢に応じた柔軟な働き方を実現するための措置の拡充
2 育児休業の取得状況の公表義務の拡大や次世代育成支援対策の推進・強化
3 介護離職防止のための仕事と介護の両立支援制度の強化等
今回の改正は現行法の拡充や強化措置が多いので分かり難いかもしれません。とは言え1や2よりさらに地味な3についても今後事業主は知らなかったでは済まされないことを肝に銘じておくべきです。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000130583.html
●同意なき配置転換、職種限定では違法 最高裁が初判断/日経新聞4月27日
仕事を特定の職種に限って働く人に対し、使用者が別の職種への配置転換を命じられるかが争われた訴訟で、最高裁第2小法廷(草野耕一裁判長)は26日、労働者の同意がない配転命令は「違法」とする初判断を示した。労働環境の変更を巡り、労使間の合意を重く捉えた判断といえる。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE141B40U4A410C2000000/
ポイント!
裁判は滋賀県社会福祉協議会で働く労働者が、総務課への配転を不服として提起したもので、両者は労働者の職種を福祉用具の改造・制作、技術開発に限定する合意を交わしていたとのことです。労働者と使用者は対等な立場で労働契約の締結や変更には合意が必要と定める「労働契約法」に則った判断と解されます。
●勤務時間外の連絡、「つながらない権利」に関する調査結果を発表/連合
連合は12月7日、「"つながらない権利"に関する調査2023」結果を発表した。インターネット調査で18~59歳の有職者1,000名の回答を得た。「勤務時間外に部下・同僚・上司から業務上の連絡がくることがある」と回答したのは雇用者の72.4%で、コロナ禍前より8.2ポイント上昇。そうした連絡に「ストレスを感じる」は62.2%、「連絡を制限する必要があると思う」は66.7%に上った。
勤務時間外の取引先との連絡(業務上の連絡)について「職場のルールがある」は19.9%、労働組合がある職場では29.7%と多い。「ルールがあることで実際に連絡が少なくなっている」と感じている人は73.3%を占めている。
https://www.jtuc-rengo.or.jp/info/chousa/data/20231207.pdf?6597
ポイント!
ゴールデンウイークのお休みの間仕事の関係者から業務上の連絡などは無かったでしょうか。上記は少し前のアンケートですが、詳しく見てみると業種によって時間外の連絡が入る状況がまちまちで、つながらない権利の行使に疑問を感じる割合もその状況を反映した形(「建設業」「宿泊業、飲食サービス業」「医療、福祉」が高い傾向)になっていました。
古くて新しい問題ですが、一括りで論じることはなかなか難しいようです。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFK138IA0T11C21A0000000/
●提言「高齢社員のさらなる活躍推進に向けて」を発表/経団連
経団連は4月16日、提言「高齢社員のさらなる活躍推進に向けて」を発表した。企業における高齢社員の活躍は、深刻化している労働力問題への対応の鍵であり、高齢社員のエンゲージメント向上を通じパフォーマンスを高めることは、イノベーション創出や、企業の生産性の改善・向上にもつながるが、高齢社員の職務・役割と賃金水準の乖離などの課題もあるとし、高齢者雇用の現状と課題、課題解決への対応と、企業の事例(12社)を掲載。
https://www.keidanren.or.jp/policy/2024/033.html
ポイント!
提言は高齢者だけでなく、働く人全てに当てはまる課題でありその解決策になるのではないかと感じました。企業事例(12社)では70歳以降の継続雇用を行う企業も挙がっていますが、定年の定めのない企業の方はごく少数です。
提言中の「エイジフレンドリーガイドライン」がピンと来なかったので共有させて貰います。
●『離職過程における労働者の心理―認知的タスク分析を応用したインタビュー調査―』/労働政策研究報告書No.229
失業中の労働者への一貫した支援を提供するための理論的枠組みを構築し、求職活動支援の研修プログラムに活用できる就職支援技法の開発のため、失業から再就職への移行における心理的過程を雇用関係の観点から分析しました。失業中の労働者にインタビュー調査を行い、失業に至る(離職課程)には需要消滅型と供給意欲消滅型の2つのパターンがありそれぞれ4つのタイプがあること、両方の事例において、労働者は自身の供給意欲よりも事業主からの労働サービスの需要が離職に及ぼす影響をより強く重視している傾向が見られること、などがわかりました。
https://www.jil.go.jp/institute/reports/2024/0229.html?mm=1951
ポイント!
調査結果の考察のなかで、労働サービスの需要に対応できない“労働者の無力感”“無力感の背景”といったワードが何度か出てきました。無力感からの脱却には小さな成功体験の積み重ねも重要ですが、失業者の再就職支援には失業者の心理的過程の理解が不可欠です。
タイトルの「認知的タスク分析」が耳慣れない言葉だったので下記調査も見てみました。
●選択的夫婦別姓制度の早期実現を要望/経済同友会
経済同友会は8日、選択的夫婦別姓制度の早期実現に向けた要望を発表した。選択的夫婦別姓制度の早期実現について賛同を表明し、妻(女性)が夫(男性)の姓に変更するケースが多いため、夫婦同姓による女性の職業活動上の不利益、行政や金融機関の変更手続きに伴う負担を指摘。旧姓の通称使用について、旧姓併記に対応した仕組み・システムへの変更に要するコストや、国際的には安全保障上のリスク要因になり得るとして、政府に対し選択的夫婦別姓制度の導入を求めている。
https://www.doyukai.or.jp/policyproposals/articles/2023/240308.html
ポイント!
労働新聞3月11日号のコラムでも取り上げられていますが、具体的な例としてパスポート利用の際に(主に女性が)被る様々な不便が挙げられています。選択的夫婦別姓の導入を盛り込んだ民法改正案が答申されてから4半世紀以上が経っても法案成立の見通しすら立たない状況であることを知り、改めて驚きがっかりしました。
●育児期残業免除 小学校就学前まで延長 来年4月に施行へ 厚労省・育介法等改正案要綱 2024.02.08 【労働新聞 ニュース】
厚生労働省は1月30日、育児に伴う残業免除期間の延長などを盛り込んだ育児・介護休業法などの改正法案要綱を労働政策審議会に示し、「おおむね妥当」との答申を得た。3歳未満の子を養育する労働者の請求に基づいて講じる残業免除の対象期間について、小学校就学前までに延長する。子の看護休暇も拡充し、対象となる子の範囲を現行の就学前から小学校3年生修了前に広げるとともに、取得理由として感染症に伴う学級閉鎖などを追加する。いずれも施行予定日は来年4月1日。今通常国会に改正法案を提出する方針だ。…
ポイント!
上記以外に、子が3歳未満で短時間勤務制度の適用が難しい場合の代替措置に在宅勤務等を追加する。子が3歳から小学校就学前までの場合、事業主が始業時刻等の変更、在宅勤務、短時間勤務制度、新たな休暇等から2つ以上を措置することを義務とする等が挙げられています。
また、介護についても、就業しつつ介護できるよう、申し出に基づき在宅勤務等の措置を講ずるよう努めること等とする案となっています。原文は下記の通りです。
▽法律案要綱(諮問文)
https://www.mhlw.go.jp/content/001200561.pdf